ふわふわ不和

都市と死

中央防波堤~東京最後のフロンティアを歩く

東京湾の埋め立てによってその領域を拡大し続けた江戸・東京。数ある埋立地のうち、お台場に代表される臨海副都心豊洲にはショッピングモールやタワーマンションが立ち並び、休日にはそれなりの賑わいを見せている。

一方で、東京湾上には道路や廃棄物処理施設などのみが立地し、工事関係者以外がほとんど立ち入ることのない埋立地が存在する。

 

「中央防波堤」。

内側埋立処分場(1973年埋立開始)と外側埋立処分場(1977年埋立開始)からなるエリアを指す名称である。エリア内には商業施設はおろか公園、トイレも存在しない。むろん居住人口は0人である。

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地図で確認すると隔絶されっぷりがよく伝わる(青丸が中央防波堤)

 

中央防波堤は島外との唯一のアクセス路である自動車専用の「第二航路トンネル」によって臨海副都心方面と結ばれており、歩行者が到達することはできない。公共交通機関で訪れる場合、りんかい線東京テレポート駅ゆりかもめテレコムセンター駅から中央防波堤停留所まで向かうバス路線を利用する必要がある。

 

大型連休最終日の昼下がり、そんな陸の孤島、いや、海上埋立地だからたんに孤島と呼ぶべきだろうかーに行ってきた。

お台場エリアの最寄り駅の一つである東京テレポート駅からバスに揺られること12分程度。祝日ということもあってか、私たち以外に乗車したのは軽装の中年男性のみ。

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東京テレポート駅から中央防波堤へ向かうバス。平日・祝日は1本/時間、土日は1本/日の閑散路線に

テレコムセンターを過ぎたあたり(下黄色円内)からは観光客が立ち入らない、東京の物流を支える無機質な倉庫群や流通施設が続く。乗車し始めてから10分程度でトンネルを通過する。

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内側処分場上の終着地、中央防波堤停留所で降りる。近辺には清掃工場や廃棄物処理施設が立地し、歩行者の気配はまったく見えない。リサイクル工場の敷地内に並ぶプレスされたペットボトルの塊は、廃材アートのような趣がある。

いちおう歩道は整備されているものの、歩行者用信号はエリア内に1箇所しか確認できなかった。完全に自動車交通がメイン。

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歩道はさほど管理されていないのか、ところどころ雑草が伸び放題になっており、生命力の強さを感じさせる。

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ふと上空を見上げると、羽田空港への着陸態勢を取る飛行機がゆっくりと降下していく。体感では3分に1本くらいのペースで飛行機が通過しており、東京の空の変換口のダイヤの過密さがうかがえた。飛行機ファンにとっては格好の撮影スポットなのではないだろうか。

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それにしても空が広い。

江東区大田区が帰属を主張しているものの、いまだにどこの区に属するかは確定していないようだ。東京最後のフロンティア。

東京都内(離島部を除く)に3基しか存在しない風力発電用の風車のうち、2基がここ中央防波堤に存在する。関係者以外の歩行者が移動可能なエリアは制限されており、風車の周辺までアプローチすることはできない。

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中央防波堤では、2020年の東京五輪のカヌー・ボート会場として「海の森公園」が建設されている。ゴミと建設発生土で埋められた島に作られる海の森。どことなくロマンチックな名称は、殺人事件の現場としても名を馳せた夢の島のように誇大にも滑稽にも思われる。公共交通アクセスも極端に悪く、五輪終了後は人も疎らな負の遺産として残されるのではないか。 

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お台場方面へ向かうトンネル。フジテレビもうっすら見える

外側埋立地へ通じる「中防大橋」を渡る。

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外側埋立地の景観

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コンテナが並ぶ。ここから先は立入禁止

外側埋立地では現在進行系で埋め立てが行われており、内部に歩行者が立ち入ることはできない。現在では国際海上コンテナターミナルの整備が進められている。

バス停への道を引き返す。

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約30分の散策の道中、歩行者とすれ違うことはなく、工事関係者と思しき大型トラックの運転手からは怪訝な目を向けられた。現在の中央防波堤は、都市博開催が決定した頃のお台場や豊洲市場建設段階の市場前駅周辺にも匹敵するような巨大な無なのではないだろうか。


お台場の商業空間を支配する記号の過剰や喧騒、茶番臭さに吐き気を催したときは、ぜひ中央防波堤まで足を伸ばしてほしい。新しいトーキョーの原風景がここにある*1

*1:見学を申し込めばもっといろいろ見られるそうです